カップ酒は、180 ml の容量で、低価格でいろいろな銘柄を楽しめるもの。灘・伏見を中心とした大手酒造メーカーのカップ酒は日本各地に浸透している。地方のコンビニに行ってみても、地酒のカップ酒はなくとも、大手酒造メーカーのカップ酒は置いてある......なんてことはとてもよくある。マスを相手にしたマーケティングおよびロジスティクスでは、こうした大手酒造メーカーが圧倒的に有利なのは間違いない。ロジスティクスのためのインフラストラクチャーも充実しているし、マーケティングにかけられる資金もある。さらに、全国隅々に流通させるだけの生産量もある(小さな蔵の年間生産量を大手酒造メーカーだと数時間で生産してしまう......という現実がある)。
地酒のカップ酒を飲んでいて感じるのは、「同じ蔵の純米酒クラスだともっとおいしいものもあるのになあ......」ということ。カップ酒だけを飲んでいるわけではないので、そう感じたことは何回もある。カップ酒に充填されるのは、基本的にはその蔵の最低クラスの酒であることが非常に多い。至酔飲料(飲んで酔えればいいや......という飲みもの)としてのポジショニングであればそれでもいいかもしれない。地元の人が、ちょっと出かけるときに買い求める酒としてのやさしい価格帯の商品というポジショニングもありだろう。
今回の話題は、これをその蔵が自信を持って飲んでもらいたい酒を売るためのマーケティングツールとしてカップ酒をとらえた場合に、カップ酒はどうあるべきか......ということ。
たとえば、「龍力」。これは、いままでに飲んだ本醸造酒クラスのカップ酒ではいちばんのお気に入りのもの。これを飲んで、「龍力」のポテンシャルを感じた。それによって、本田商店の別の酒も買って、楽しんでいる。このプロセスを分解してみよう。
- カップ酒に興味を持った
- インターネットで調べてみると、「龍力」というカップ酒は、dancyu でもオススメのハイクオリティのものらしい......ということがわかった
- 「龍力」カップ酒を入手し、飲んでみる
- 「龍力」カップ酒は、おいしかった
- 自分の活動圏内の酒屋で「龍力」の別商品(四合瓶)を発見し、入手し、飲んでみる
- 「龍力」の四合瓶は、おいしかった
- 「龍力」は、おいしい......という認識に至る
- また買ってみてもいいな......と思う
いささか個人的体験に過ぎるかもしれないが、この中にはカップ酒をサンプラーとしたマーケティングツールとしての活用法が潜んでいると思う。順番どおりに話していきたいのだが、1 がもっともハードルが高いように思うので、2 から。
- インターネットで調べてみると、「龍力」というカップ酒は、dancyu でもオススメのハイクオリティのものらしい......ということがわかった
最近のマーケティング理論で言うところの AISAS の I = Interest、S = Search あたりになるのだろうか。S が I を増幅することもあるだろう。人は未知なるものに挑戦することに対しては、保守的な場合が多いので、何らかのオーソリティ(雑誌などのメディアや権威者)による紹介というトップダウン型、ないしは不特定多数のコメントなどのボトムアップなオピニオンが利用できそうだ。日本酒の人気自体が底打ち状態なので、この場合はボトムアップを狙うにしても、なんらかのトップダウンのマーケティング施策を打つ必要がありそうだ。 - 「龍力」カップ酒を入手し、飲んでみる
ここもけっこうハードルが高い。なぜならば、「龍力」を買うことが難しいから。もちろん近所で売ってなくても、通信販売はできる場合も多い。しかし、通信販売するにしても、1 本や 2 本買ったところで、送料の方が高くついてしまう。ここで 2 のオーソリティに登場していただく。カップ酒ソムリエのチョイスで「ベストセレクション 10 本セット」みたいなパッケージ商品にしてしまう。現地に行かないと手に入らない地酒カップもけっこうあるので、このパッケージでないと通信販売では手に入らない......という限定もの的な手法もありかもしれない。 - 「龍力」カップ酒は、おいしかった
ここがいちばん肝心。おいしくなければ、なにひとつ始まらない。カップ酒は、おいしくないものが多すぎる。ここまでで 120 本近くのカップ酒を紹介してきて、「これならば人に薦められる」と個人的に感じたものは、わずかに 11 本。10 % 未満。ここはひとつ蔵にがんばっていただて、「お?」とコンシューマーに思ってもらえるようなおいしい酒を詰めたカップ酒を作っていただきたいものだ。本醸造酒、純米酒クラスあたりがよさそう。
長くなったので、続きは次回。
- Newer: #cup120:若鹿:舟木酒造
- Older: #cup119:自然郷・さわやか:大木代吉本店